2019.12.01
帰宅してむすめにどこがおもしろかった?と聞くと「雪の女王!」と答えた。「ちゃんと映画見てたのか?!」と問い詰めたくなったけれど、それはわたしの都合だと自制する。
オ ートバイに乗った二人組というのは 、フィリピンではよくある暗殺スタイルだった 。
エヴァン・ラトリフ『魔王 奸智と暴力のサイバー犯罪帝国を築いた男』
『魔王 奸智と暴力のサイバー犯罪帝国を築いた男』を読む。ポール・コールダー・ル・ルーというサイバー犯罪のドンの軌跡を追うノンフィクション作品。ル・ルーが手掛ける犯罪はアメリカで脱法ドラッグを扱う薬局事業からソマリアでの武器取引、裏切り者の処分(拷問から殺人まで)と多岐にわたるが、著者のエヴァン・ラトリフは綿密な資料収集と取材でその全容を追っていく。闇社会でFacebookと同規模の利益を出す"帝国"の作り手、ル・ルーはもちろんだが、誰よりもル・ルーに魅せられたラトリフの執念的な調査に圧倒される(ちなみに紙にして559ページある本書のうち、20%を原注が占めている)。犯罪についてのさまざまな豆知識なども書いてあるので参考になった。
2019.12.03
『大量殺人の“ダークヒーロー” なぜ若者は、銃乱射や自爆テロに走るのか?』を読んでいたところ、会社で上長に怪訝な顔をされる。
アメリカでの銃乱射事件を中心に大量殺人犯の人生や心理を追ったドキュメンタリー。凄惨な“日常生活”から暴力抜きで脱出するために何ができるのかを考えていこうみたいな感じで終わった気がするが、内容が内容だけに普通に鬱屈とした気持ちになってしまった……。
2019.12.07
体調不良。
前々から楽しみにしていた『文藝別冊川上未映子』と『息吹』が届く。腹を括って夫にむすめをまかせ、ひたすら本を読み、ねむる。
わたしたち人間は、“なぜ”という疑問の答えではないのかもしれませんが、"どんなふうに"という問いの答えを探しつづけるつもりです。
この探究がわたしの目的です。主よ、あなたがわたしのためにお選びになったからではなく、わたしが自分でそれを選んだからです。
アーメン。
テッド・チャン『息吹』
むすめを産んでから、自分の人生の一回性について考えることが増えた。
わたしは、“わたしという人生のif”を考えることが好きな子どもで、その妄想癖は二十歳を超えてからも治らなかった。わたしは、“わたしの考える最強のわたし”を常に心において、詮無き日常生活をなんとか生き抜いてきたのだ。
しかし、唯一無二の存在であるむすめが、数百万個の卵子と数億個の精子から確率的に選択され、生まれたという事実は、同時にむすめが生まれない無数の世界への想像力を喚起し、これまでの何かをやり直すこと、を恐怖でもって頭から追い出しにかかる。
この二冊を読んで、むすめをやり直せないように、わたしもまた、やり直せないという実感がもたらされた瞬間を、わたしは改めて祝福したいとおもった。
もうろうとする頭、頭がもうろうとすること。
2019.12.08
体調は回復、しかし前日の反動か、むすめのグズりがすごい。
あらゆる思想は、損われた感情から生れる。
エミール・シオラン『生誕の災厄』
飛び抜けた絶望は、ときに根拠なき希望よりも希望的な存在としてこの目に映る。
むすめと無意味な問答を繰り返すとき、その無意味さを真剣に思うことを許される本は救いになる。
2019.12.13
小川哲『嘘と正典』が欲しいけれど貧困。
調べてみると、試し読みで短編「魔術師」が読めると言うので慌ててダウンロード。
端的に小川哲しゅきしゅき。
2019.12.19
またしても体調不良の予感。冬に"寒い"と"寒気がする"の区別がつくようになるのはいつなのか。
Amazonのブラックマンデーだかフライデーにまとめ買いした平野啓一郎の『マチネの終わりに』と『ある男』を読む。
平野作品を読むのは久しぶりだったけれど、冒頭の数行で「あら、平野さん、お久しぶり。」という気持ちにさせられて安堵する。
今によって過去を描き直すというテーマや父という余分なものの不在の色濃さなど通底するものがありつつ、全く違う物語になるのが、当たり前だけどすごいと思ってしまった。
2019.12.20
忘年会の日。『テーマパーク化する地球』を再読。
現実にひとは、インドに行くだけで、日本でけっして検索しない言葉を検索し、けっして読まないサイトを読んでしまうものなのである。
東浩紀『テーマパーク化する地球』
会社へ向かうバスに揺られながら、インターネットをするために体験する、ということについて考える。
バスを降りるとすぐ一緒に働く友達に会ったので話しながら通勤する。
2019.12.21
飲み会の二次会で『medium 霊媒探偵城塚翡翠』を薦められたので買う。
ねむる。めざめる。
寝不足かつ宿酔いで育児は夫に任せ本を読む。
普段あまりミステリを読まないこともあり、あんまり期待せず読みはじめた『medium〜〜』が思いがけずゴリゴリのフェミニズム小説で嬉しくなってしまった。
構造的には『ハルは異世界で娼婦になった』とほぼ同型で、一見男に搾取されているように見えながらも実はその関係を巧妙に利用するというヒロイン像に翻弄される、という一発芸感が良い。
2019.12.25
サンタチャレンジに緊張してなかなかねむれなかった前夜。
夫は忘年会で遅かったのでむすめを寝かしつけ『デリダと死刑を考える』を読む。
デリダと一枚の写真の切り抜き、が運命的、なんて思いながら寝落ち。
2019.12.28
アンチ・レイシズムはパンクの教養
磯部涼『ルポ川崎』
95年を転換点にBAD HOP、中1殺害事件、リバーズエッジがゆるやかに結びつくさまが心地よい。
伝手がないままはじまったという一連の取材がめぐる人の縁で成立した、というのもこの街ならではなのかもしれない。
誰もが語りたがるナラティブな街。川崎。
2019.12.29
むすめと映画を観にいこうと出町座に向かう。しかし、観たかった作品が満席だったり、いざ観ようとすると現金支払いでお金が足りなかったりと自己責任さんざん。
結局はムービックスにいって、むすめが観たがるので『スター・ウォーズ』のチケットを買う。
しかし、入場前にむすめはねむってしまい、目を覚ますと闇落ちしたカイロ・レンにびびり退場。
こういうことの繰り返しこそが教養になるのだ、と言い聞かせ、奥歯を噛みしめ帰宅。
千葉雅也のエッセイ『アメリカ紀行』を読む。
彼の文章は非常に映画的でありながら描かれる内容は文章でこそ表現できるものだと思う。
尻切れ蜻蛉だった映画鑑賞欲を満たす。
2019.12.30
義父の車に乗って義実家に帰省。『medium〜〜』での成功体験で味をしめたので、過去のこのミス大賞受賞作『トギオ』を読む。車酔い。
冒頭を読み、昭和前半くらいをイメージしながら読んでいたら、未来のディストピアで意表を突かれる。
デジタルダブルの形成によって個人情報が公共化された超信用社会と、それに基づく覆しようのない格差や、東日本大震災を思わせる都市の破壊の描写が印象的。
2010年代における社会課題総ざらい、という感じだなあ、と巻末の発行年を見ると2010年で著者の慧眼に驚く。
同氏の作品は他にないのか、とググるも刊行されている長編はなさそうでがっかりした。